育て達人第086回 志村 ゆず
活用広がる「写真でみせる回想法」 恵まれた教育環境を生かしてチャレンジを
人間学部、大学院総合学術研究科 志村 ゆず 准教授(生涯発達心理学)
人間学部の志村ゆず准教授は高齢者への心理学的援助をテーマにした研究に取り組んでいます。「回想法」もその一つです。執筆した「写真で見せる回想法」という本では、お年寄りに昭和30年代を中心にした写真を見てもらい、回想を通して聞き手とのコミュニケーションをつなぐ方法を解説しており、活用が様々な分野に広がっています。
――「写真でみせる回想法」では、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の世界のような写真30枚をどう回想に結びつけるか、解説されていますね。

「震災支援は自分のできる範囲で役立ちたい」と語る志村准教授
「写真でみせる回想法」は2004年に弘文堂という出版社から出された本で、「生活写真集?回想の泉」という本とセットで出版されました。私と編集を担当した島根県出雲市民病院の麻酔科医師である鈴木正典先生が、がんの末期医療に携わっての体験がきっかけになりました。お年寄りが懐かしい写真を目にすることで、家族との会話を通した人生の振り返りを支援することができることから、写真で見せる回想法のアイデアを提案されました。心理療法の分野でもあり、私にも声がかかり、研究会などを通じた仲間の先生方ら4人にも執筆に加わってもらいました。写真集では昭和30年代を中心に、給食、駄菓子屋、お正月、紙芝居、おつかい、授業参観、洗濯など、まさに「三丁目の夕日」の時代の日本の生活風景が紹介されています。
――回想法は医療、介護、緩和ケア、傾聴ボランティアなど様々な分野で活用されていますね。
回想法を使って自分の人生を掘り下げ、成長につなげようという生涯学習グループもありますし、回想することで、かつて同じ仕事の仲間同士が関係を修復する場合もあります。過去のライフレビュー(人生の振り返り)をすることは、現代の問題解決にも大きく役立ちます。この夏の電力不足対策では、過去の生活を振り返ることで、昭和の時代の扇風機やすだれを使った工夫が実現できると節電対策になるかもしれませんね(笑)。一方で回想法には良質な聞き方が求められます。写真を見て、後悔の念が感じられたときには「それは本当に苦労されましたね」とかねぎらいの言葉で支えることが必要です。
――回想法の研究を始めたきっかけは何ですか。
大学院修士課程の時に指導していただいた先生から、「高齢者を対象にした心理学研はまだそんなに多くはないよ」と、背中を押してもらったことと、同じ研究室の学生が「回想法という分野もあるみたいですよ」と何気なく言ってくれたことです。軽いきっかけでしたが研究を進めていくうちに面白くなりました。何もやらないで足踏みしているのではなく、まずはやってみることが大切なんだと思いました。
――今回の大震災は学生たちにも衝撃だったのでは。
繰り返し映し出される津波被害の映像や壊滅状態の被災現場の生々しい惨状に、大きなショックを受け、トラウマティックストレス(心的外傷後ストレス障害)の様な症状に一時的に陥った人たちも全国で相当いたと思います。私もゼミ生たちが心配になり、春休み中でしたが、いろんな口実をつくってほぼ全員を研究室に呼び出して、さりげなく話を聞きました。予想通りものすごく影響を受けている学生もいました。まじめでやさしい性格の学生ほど、「どうしたらいいかわからなくなりました」と、軽い落ち込み状態が見られました。